ランドナビコース(0311〜0312.2001)

2001年の3月上旬下旬にランドナビコースを実施した。
その年最後の寒気団が上空を覆い、開始日の午前中から雪が降り始めた。開催地は濃尾平野の東隅、最大標高400mで特徴の無い山地だが、西の伊吹山から東に向かって100`に渡って吹き降ろす風とそれに伴う湿気が溜まる場所。天候の変化が激しく、5`西の平野と比べると平均で5度ほど気温が低い。舐めてかかると生き地獄を味わうことになる。
同じ場所でFRコースも実施されるが、夏は平野と変わらない熱帯地獄。体調1.5センチの血に餓えたやぶ蚊の大群が参加者を集中爆撃する。どれだけ蚊よけスプレーを使っても一向に効き目が無く、下手すると眠れない。
今回はコンパスや距離測量などのナビゲーションテクニックに平行していかにして寒さを克服するかも課題だった。

3月11日: ランドナビコース
このコースでは、
マップリーディング
コンパス
距離測量
これら3点に重点が置かれる。
カラー地図にはMNのUTMグリッドラインが引かれ、GPSにも対応している。
参加者が持ち込むコンパスのほとんどが英軍のM73プリズムコンパス。油圧シリンダーなので磁針盤の回転が安定し、ティリチウムのおかげで夜間も快適にナビできる。高価だがロールスロイス並みの使い心地で、「もう二度とアメリカ軍のレンザティックなど使いたくない。」と言うのが参加者のコメント。
距離測量には古典的な歩測と、ミルレティクル付の双眼鏡を使う。ナビゲーションは科学であり、直感や野生本能に頼ると必ず失敗する。対象物の長さが分かり、ミルレティクルの双眼鏡があれば10m以下の誤差で距離がわかる。コンパスで方位を割り出し、地図と見比べればドンぴしゃりで自分の現在位置も割り出せる。

このコースではナイトセクションもあり、参加者の体力や摂取する栄養の種類と質、天候などによって状況は絶えず変化する。どれだけ精度の重要性を理解していても疲れてくるとミスもある。自覚なしのミスは必ずトラブルに繋がる。ルートを失い、崖から転落したくなければ健康管理などの細かい部分まで気を配る必要がある。

ランドナビの基本は多重チェックの徹底で、全員でコンパスを覗き込み、中国の全人代方式で地図を睨み、結論はチームで決定する。




雪の中を薮漕ぎ中の2名。徐々にしょぼくれだす



30分後にはかなりの豪雪。現在位置を測量中の参加者。チーム内での会話も無く、かなりしょぼくれている。最大500mもの個人差に驚いていた

夕食後、20:30発でナイトセクション開始。
降り積もりそうな雪の中、薄着にポンチョ着用、個人用テントと寝袋、食料などをデイパックに押し込めて出発。昼間に通ったルートで迷うこと数回。目を凝らすので疲れ目で視力も低下する。夜間には物の見方にコツがある。
低気圧の縁が通過し、満天の星空と急速な冷え込みが参加者のやる気を削いでいく。参加者が持ち込んだロシア製のナイトビジョンは叩かないとスイッチが入らず、2メートル先の顔も区別できない。何に使うのだろう?
風がどんどん体温を奪っていく。出発前に満タンにしたカメラと携帯電話のバッテリーがなくなる。ニッケル水素でもリチウムイオンでも充電式のバッテリーは気圧低下と気温低下の影響を受けやすい。軍隊が使い捨てバッテリーにこだわる理由を体で学べる。
23時過ぎに終了。




雪の夜間に薮漕ぎ中の参加者。SASスモックにフライトグローブ、50リットルのデイパックとタクティカルな装備設定。お勧めはSASスモックで体温調節がしやすい。左胸のポケットから垂れているのはペースカウンタ−。薮漕ぎであっても歩数をカウントする。手に握っているのがM73コンパス。蓋を閉じている状態で進むべき方向を示してくれる

疲れてくると口で呼吸するようになるがこれは間違い。体内の貴重な水分をどんどん失い、水筒のお世話になる回数も増える。どれだけ苦しくても鼻だけで呼吸するようにしないとロングセクションでは脱水症状になり、チームに迷惑がかかる

3月12日:サバイバルコース
未明から風がやみ、強烈な放射冷却に襲われ、つま先が冷えて眠れない。冬山登山の経験のある参加者はつま先にハルオンパックスを張り、羽毛の靴下を履いて快適に寝ていた。真剣に取り上げようと考えたが主催者が泣き言を言っては示しがつかないので諦めた。むかつく。

起床後に前日のナイトセクションの総括。問題点を指摘し、克服のための要領を教えた。

昼食後にサバイバルコースを開始。
今回のコースでは、
Aフレームベッドの作成
ユーコンストーブの建設
ナイフ講座
これら3種類を学んだ。

15:00過ぎに終了。





フレームベッド:
太目の竹材6本とパラコード、筒状の専用ハンモックから作る簡易ベッド。その場にある材料を活用して作るこのベッドは背中側を風が抜けるので快適に眠ることができる。これにポンチョかバシャテントを張れば雨も凌げる。蒸し暑い夜には欠かせない。
竹は万能のサバイバル用素材で重宝する。

一人でも竹材の切り出しから30分もあれば完成する。


ユーコンストーブ:
穴を掘る、レンガを積むなど数ある焚き火の中で一番燃焼効率が良いのがこのストーブ。穴の底の火が左の横穴から空気を引き込み、熱は上に抜ける。完全な空気の流れが出来上がり、高温で燃焼するので煙も出ない。管理が楽で一度火がつけば何でも燃える。
暖をとる、料理に使うなど汎用性も高く、24時間以上同じ場所で過ごすのなら作るだけの価値はある。
写真は前日の雪で湿った木材に着火している段階なため煙が出ている。
穴掘りから完成まで3人がかりで30分程度。一人でも2時間はかからない。





ヤスリ鉈:
写真はナイフ講習中の1コマ。
年代物の木材用ヤスリを越前の伝統工芸士、佐治武士が鍛造成型し、焼入れした鉈。強烈な硬さと粘りが特徴で、ストライダーでは切れない(刃こぼれする)竹材を一振りでで両断する。切れ味は五右衛門も真っ青で凄みすら感じる。


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